眼球が物を言ふ。眼球が物を言ふ。そう云ってゲラゲラ哂う男を誰が止められようかとこの男は思う訳だがさて哂う男はそんな男の懸念も気にもせず哂い続けるワケで、そもそもこの哂う男が男の云う事に耳を傾ける訳も無いのだしそれにこの男は哂い続ける男の狂気を心地よく感じている節があるから故に止める気も無いに等しいのだが、自分で抉り取った癖にその眼球に色々様々イロトリドリなもの全部を仮託しているかと思うと遣る瀬無いような何と言うか。だから今日も無視してべんべん、三味線弾き語り、そうしてれば哂い続ける男は痙攣するのを止めて今度は何がおかしい、と牙をむき出しにして怒りを顕にするだろうからこの男は其れを考えてニヤニヤ、嗚でも矢張り遣る瀬無いような。「何考えてる?」「…眼球が、何を云ったのかと」「ハハ、知りたいのか。なら御前も俺になればいい。眼球引っこ抜いて自分で考えな」そう云って接吻の安売り、何処で覚えてきたと問う勇気も無ければ興味も無い、この哂う男にのめり込んだが故に固執したが故に哂う男の深淵に魅入られたが故にそれ故に男の抱える総てに取って代わろうとしてコロサレタ男が昔居たっけ。きっと死神はこんな形をしている。だからこそこの哂う男は誰よりうつくしいのだと男は一人納得し、次の瞬間直ぐにその事も忘れた。知らぬが仏、触らぬ神に何とやら馬の耳に念仏。