「ひでー目に合ったぜ…ったく」
「それァこっちの台詞だァァァァ!!お前ほぼ無傷じゃん!俺の事盾にしてたからほぼ無傷じゃんんんん!!」
命からがら(?)さっちゃんの魔の手から逃げ出した頃には、もうすっかり夜も更けきった頃である。
「まぁまぁそう怒んなって。誕生日なんだからいいだろ?」
「オメーの誕生日じゃねぇんだよォォォ!!最悪にも程があるわ!」
「ちっ我儘なヤローめ。わーったよ、じゃあ付き合ってやるよ」
「ハ?」
「飲み屋。一緒に飲んでやるよっつってんの」またタカる気である。
「…もうどうにでもしてくれ…」
土方はげんなりと肩を落とす。もう疲れきって抵抗する気力も暴れる気力もツッコミを入れる気力さえ無かった。
***
あ〜結局パフェも食えなかったし、腹ペコペコだっつの。スンマセ〜ンそこのカワイイ店員サン、とりあえずコレとコレとコレとあと日本酒ボトルと御猪口持ってきてくれます?お前、どうすんの」
「…食欲が無ェ」
「あ、そ。じゃあとりあえずコレで。ヨロシク〜」
勝手にあれやこれや頼んでいる銀時ではあるが、結局全て土方に奢らせる気だ、という事を忘れてはならない。ったくよ、ホントコイツむかつくわ、ってか、何か俺忘れてね?何か忘れてね?
「───総悟」
そうだ、アイツ追いかけて鍵取り返さなきゃならねぇんじゃん!疲れすぎて忘れていた土方、漸く当初の目的を思い出しその場でがたりと席を立った。
「何やってんの」のんびり問う声。銀時である。
「アイツ追っかけなきゃなんねーだろうが!こんな所でのんびり飲んでる場合じゃねぇ、オラさっさと行くぞ!」
「いいっていいって。とりあえず今日誕生日なんだろ?ならのんびりしとけや。こんな機会滅多にねぇだろ、この仕事人間。折角沖田クンも気を遣ってくれたんだしさ〜」
んなワケあるか。アイツは俺の苦しむ顔が見たかっただけじゃねぇか。てかどんだけポジティブシンキングなんだよコイツ、てかオメーは単にタカりたいだけだろと土方は突っ込みを入れる。
「ハイハイ、いいから座って座って。飲ましてやっから」
「お前な、んな事言ってるけどな、このままでいいのか。総悟のヤロー、とっちめねー限り絶対鍵寄越さんぞ」
「未来の事クドクド言ってもしゃーねーだろ。来年の事を言うと鬼が笑う、ってな」
微笑しているのは鬼ではなく土方の目の前の男である。そもそも、未来についての言及というより現状打破の言を言っているだけなのだが。
「何睨んでんのよ。この銀時サマが飲ましてやるっつってんだよ、わーったらさっさと口開けろや」
そういう銀時の手にはもう既に並々と酒が注がれた御猪口が。それを土方の唇にぴたりと当てた。
「何でテメーに飲まされなきゃなんねーんだよ!」
「え、だって手錠ついてんじゃん。お互いがお互いに飲ませるみたいな形じゃねぇと飲めなくね?コレ」
向かい合った姿で手錠という格好であるからして、確かにこれは仕方ないのかもしれなかったが、土方は顔を渋くする。それを見た銀時は微笑し、土方が何か言うより先に言った。
「…俺に向かい合って飲んだ酒なんざ不味くて飲めたモンじゃねぇ、ってか?はぁ〜…お前って、つくづく俺の事嫌いだよね。じゃあ俺先に酒飲むけど」
銀時がお猪口を自分の口に当てた。自然と土方の手も手錠で繋がれているが故に銀時の口元へと動く。その手錠故に、顔を見合わせる事しか出来ない。目を伏して微笑した銀時。その頬に落ちた睫の影が何だか幽寂としていて、土方は知らずと口を開いた。
「───お前だって、俺の事、嫌いだろうが」
言い訳めいていた。きょとんと銀時が土方を見返す。
「…てェ事は、俺がオメーの事が嫌いだから、オメーも俺の事が嫌いだと?じゃあ、俺がオメーの事好きだっつったらどうする気?」
「な…」
「ホワイトデーん時のお返し」そう言ってニヤリと笑う。そうして、銀時は酒を呷った。冷たい感触。お猪口から垂れた酒の雫が、土方の手をつうと伝っている。「ああ、零しちゃった」と言って、身を少し屈めて土方の指に舌を這わせる。生暖かい…
「っ」
指の股に舌。ざらりと猫がミルクを舐め取るように、其れは酒の雫を攫っていく。息を呑む土方。その表情を見て、またも銀時は微笑するのだ。
「感じちゃってんの?」
「ふざけんじゃねぇ」
「可愛くないねぇ。折角祝ってやろうとしてんのによ」
「ほォ。どう祝ってくれると?」
白皙の貌に、妖しげな口元。濡れている。
「存外甘いモノがお好きと見える副長殿に、砂糖吐く位ゲロ甘の夢の一つや二つ、本日限りの至れり尽くせりの大サービスでプレゼントしてやろうかな、と」
「マヨネーズにしろ」
「フン。んとにかわいくねぇ」
しな垂れかかる肢体。首筋の白さに目が灼ける。
「酔ったのか?」
「そうかもな」
「お猪口一杯で?」
「知るかよ。テメーも酔えや、土方よォ」
「飲ませてくれんのか」
「飲ませて下さい、だろ」
「抜かせ」
「酔わせて下さいお願いしますだろ、ってば」
クスクス笑いながら、男は土方の唇に自身の唇をぴたりと重ね合わせた。酒の味がする。この男の好きそうな甘い酒だ。
「俺と過ごす誕生日は御不満?俺は満足だけどね、手錠までされちゃって、お前と何処までも一緒」
「…悪いモンでも食ったか」
「本当に失礼な奴だな。本日限りのリップサービスに決まってんだろ」
それよか、───誕生日おめでとーございます。生まれて来てくれて有難う。そして俺と出会ってくれて有難う、六十億の中から俺を見つけてくれて有難う───男は更に続ける。
「そんじゃあ、どっかホテルにでもしけ込もうか?」
「いいのか?」
「望む所。この間の雪辱晴らしてやるよ」
「ああ、ホワイトデーのアレか。執念深い」
「そりゃお前だろ。…おっと」
銀時は、土方の胸元に顔を寄せた。目線の先は、小型無線マイクである。
「いっけね、すっかり忘れてた。今までの話聞いてたよね未成年、ってなワケでここからはオトナの時間ね。ガキはおねむの時間。わーったらさっさと寝な」
『…ガキ扱いしねぇで下せィ』沖田の声だ。
「何言ってんだ、今の今まで狸寝入りして俺達の会話に聞き入ってた奴が」
『旦那。俺が誕生日迎えた暁にゃあ、アンタは俺にも御奉仕してくれんのかィ』
「ん〜…考えとくよ。オヤスミ」
そしてマイクを取って床に落とし、足でグシャリと踏んだ。酷い扱いようである。土方が唸った。
「テメー…」
「あ、マイク?もしかして高かった?悪いね」
「あの言、どういう積もりだ」
「どういう積もりって。…気になるんだ?」
「マヨネーズぶっかけられたいか」
「うわあ卑猥〜サイテ〜。そういう事は閨ん中で言ってくんない?誘ってんの?」
微笑している唇から覗く赤い舌と目が合って、土方は渇きを覚える。切なげに土方は眉を顰め、そして男を無理矢理引き寄せた。
「もう黙れ…銀時」
掠れた声で囁いた土方が銀時に顔を近づけ、そのまま口吻けようとしたその瞬間、事件は起こった。何と銀時が実に嫌そうな顔をしてさっと顔を背けたのである。
ちょっと待てや。え?何?顔背けるって何?どういう事?何、何でこのタイミング?え、何、最悪じゃね?俺何かした?何この急変は?
内心うろたえながら、それでもポーカーフェイス気取って更に顔を近づける土方。それでも銀時はフイっと横を向く。やっぱり嫌そうな顔である。それを三度ほど繰り返す。土方が業を煮やして低い声で問う。
「…どういう事だ」
「どういう事だも何も無ェよ、お前、臭い。納豆臭い。お猪口一杯分の酔い醒めてきたらしい、すげぇ今の臭いで我に返ったわ」
土方ががっくり肩を落とす。そしてワナワナ震えたかと思うと、銀時に掴みかかった。
「おま、確かにそれはそうかもしんねぇけどよォォォォ!!このタイミングは無ェだろ!ありえねーだろ!何コレ、雰囲気台無しじゃん!最低じゃん!百年に一度有るか無いか位のイイ空気だったじゃんさっきまでよォォォォ!!空気読めやァァァ!!」
「お前さ、そんな事言うけど、マジくせーよお前、ホント。エチケットってのは大事だよ、人として」
「オメーがあの納豆女の攻撃防ぐのに俺を盾にしやがったからじゃねぇかァァァァァ!!!オメーマジふざけんなやァァァァ!!」
「あ、日付変わった」
ちーすおつかれさまぁした〜と銀時はガタリと席を立った。そして其の儘歩き出す。ズルズル土方は其れに引き摺られる。何にせよまだ手錠は付いたままだ。
「どこ行く気だよ!」
「どこって、帰るに決まってんだろ。日付変わったし、てぇ事はお前の誕生日も過ぎたワケだし、俺がお前に優しくする言われないからねコレ」
「シビアすぎるわァァァァ!!どうしてくれんの!俺もうそういうモードなんだけどもォォォ!」
「俺が知るか。は〜い、これにて銀サンの出血大サービスは終了ォ、ハーイ良い子のみんな、いい夢見れたカナ〜?お疲れ様でした〜」
「もう死ねよお前ェェェェ!!」
おまけ
お、総悟。こんな時間なのにバズーカの手入れか。精が出るな〜偉いぞ!」
近藤の言にも応えず無言、鬼気迫る表情で黙々とバズーカの手入れをする沖田である。最高の機嫌で帰ってくるだろう土方をぶっ飛ばす意図だろうが…土方は本当に可哀想な人だと思います…ってアレ?作文んんん!!??
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