なぁ、銀時。俺は最近漸く分かったのだ。悟ったのだ。聞いてくれるか
「…ようやく、自分がヅラだって事に気付いたってか」
「ヅラじゃない、桂だ」
「じゃあ何?ってか、ナニ?ほんと、お前なんなの?何で当然のようにウチにあがりこんで茶ァ飲んでんの?」
「いいだろ。自分で淹れたから、貴様に文句を言われる筋合いは無い」
「や、そのお茶ッ葉とか、湯呑みとか、全部ウチのじゃん。何言ってんの?殺されたいの?」
買い物袋両手に引っ提げ帰ると、何故か当然の如く居間に居座り正座しテレビを見ながら煎餅とお茶を両脇に抱えた不法侵入者が一人。デカいあの訳の分からんペットは今日は居ないらしい。
「エリザベスなら今日は留守番だ。何でも今は編み物にハマっているらしい。俺にもマフラーなるものを作ってくれるんだそうだ、フハハハ羨ましいだろ〜ん?正直に言ってみろ、羨ましいとなフハハハ」
やべ、ぶっ殺したいわ、コイツ。
「それはそうと、今日はリーダーやメガネ君は居らぬのか?」
「…アレだよ、怪力メスゴリラんトコいってんの。夕方ぐらいには神楽は帰ってくるだろうよ」
「そうか。それは好都合だ」
「あ?」
ソファにドカっと座り、テレビを眺めていた銀時が、怪訝な顔して桂に目を向ける。
「今日は貴様に話があって来たのだ。わざわざ俺から出向いてやったのはその為だ」
「それが不法侵入する奴の台詞かコノヤロー。犯罪モンだぞ、何なら警察に突き出して褒賞貰ってくっかな」
「警察か。そういえば、お前は随分とあの悪名高き真選組と懇意にしているらしいな」
「はぁ?なぁにが懇意だ。あんなチンピラ警察、死んで欲しいくらいだけど」
「中でも、特に『鬼の副長』とは懇ろな間柄だとか」
「…」
物凄く嫌そうな顔で、銀時は桂を見た。
「…あのさ、色々ツッコミたいところはあるんだけど、…そういう情報はどっから仕入れてくんの?」
「俺の情報網をなめるな。お前のあーんなコトやこーんなコトは全て筒抜けだと思え。もー、アンタあんまり変なコトしたらお母さん怒るからね!プンプン!」
「何がプンプンだよ、誰がお母さんだよ。てか、オメーなんかがお母さんだったら、皆グレるわ」
「何だと、俺が皆のお母さんだったら、全人類は平和になるはずだぞ。真の侍魂というものを教え、俺が作詞作曲した永遠の名曲『攘夷がJOY!』を子守唄とし、肉球の素晴らしさを教えればきっと…」
「意味分かんねーから!そんなお母さん居るワケねーからァァァ!!」
「銀時」
桂が一転、低い声を出す。
「俺は心配しているんだ」
「…」
「幕府の狗に近付いた所で一体何のメリットがある。貴様は既に俺との繋がりを怪しまれている筈だ」
「だな。お前のせいでな」
耳をほじりながら銀時は答える。
「特に、奴は真選組の中でも一番厄介な男ではないか、」
───『鬼の副長』、土方十四郎は。
切れ者。軍師。策士。鉄の規律の守護者。鬼の異名をとる男。
「もし俺との関係が露見したならばどうする。テロには無関係だとしても、お前には戌威星大使館での前科がある。奴の拷問はキツい」
「…確かにな、厄介かもしれねーけどよ。てか、やなヤツの筆頭?でもアイツ馬鹿だから。ただのマヨチンコだから」
「弁解のようにしか聞こえないぞ」
「何で俺が弁解しなきゃなんねーのよ。事実を述べてるだけだっての」
「そんなにヤツが大事か」
桂の真摯な目。銀時も静かに桂を見返す。
「…何か激しく勘違いしているようだから教えてやるけど。アイツとは何の関係も無ェよ。ただ…何か知らんが行動パターンやら思考回路が似通ってるみてぇでな。飲みに行く時とかも偶然会っちまうの。それだけだから」
「あの男が、アレと似ているからか」「アレって、誰よ」
桂は一瞬逡巡したような素振りを見せたが、口を開いた。「高杉」
途端、銀時の目に、奇妙な光が灯る。桂の背筋に一瞬冷たいものが走った。それは、不思議な事に懐古的でともすれば安堵と紙一重の感覚であった。死んでいるような澱み濁った目が、昔のように爛々と。それに反応する自分も些かおかしいのだろう、と桂は他人事のように考える。
「…何が言いたい」
桂は答える。
貴様と高杉は似ていた。高杉と土方は似ている。ならば貴様と土方は似ている。
「俺は後悔している。あの時何故貴様から目を離したのか」
終戦と同時に、ふらり、と姿を消し行方を眩ませたお前…
「もう見失いたくはない。俺にも貴様が必要だ」
「…テロでの武力改革は諦めたんだろ?」と、銀時。
「ああ。だが互いの『始まり』の記憶を共有する友人として、俺には銀時、貴様が必要だ。という訳で武力改革を諦めた今も、俺は御前から離れる気は毛頭無い」
「…キモいんだけど。何ソレ、愛の告白のつもり?悪いね、俺そーゆー気は無いから」
「安心しろ、俺にもその趣味は無い。人妻が好きだ」
「俺だって結野アナが好きだ」
俺だって…諦められるんなら
唇の動きだけで聞こえた声を、桂は聞かなかった事にする。…俺は、お前の弱味にだけはなりたくない。護られる対象にはなりたくないんだ。解っているのか、銀時。
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