そこで目が醒めた。日付はもう変わっている。

 

 


 畳に布団も敷かず、無様に寝転がっていた。お陰で身体の節々が痛む。
 抱かれていた。元はといえば男の身体を抱いていたのは自分の筈が、いつの間にかきつくその腕に抱かれている。
 すぐ横には秀麗な男の寝顔があったが、銀時が其の美貌をしげしげと眺めるとゆっくり其の瞼が開かれた。月夜に、鶯色の瞳が瞬いた。
「俺に優しくして欲しいか」
 銀時が囁くように云うと、高杉は笑いこう答える。
「随分と懐かしい台詞だ…」
「それにしてもあんまりな怒りっぷりだった」
「そりゃそうだ。人の誕生日に其の台詞は幾らなんでも無ェだろ」
「アイツにも拳骨で殴られたしな」
 あの拳は痛かった…微笑し伏せられた瞳を縁取る白銀の睫が月光に光る。
「大人になりゃあアイツみたいに強くなれると思ってたよ、俺はずっと」
 俺をよく叱ったあの大きい拳が羨ましかった。あの広い背中が羨ましかった。
 きっと今じゃ疾うに背も越して拳もアイツより大きい筈なんだがなぁ…
 銀時が彼の話をするのは珍しい事だった。高杉はごろりと起き上がり、猫のように這って銀時の上に圧し掛かり同じ言葉を言う。
「優しくして欲しいか…?」
 銀時。
 名前を呼ばれながら、銀時は日付が変わっている事を言わないでおいてやろうと思った。代わりに吐息だけで囁く。
「───オメーが優しいのは何時もの事だろう、高杉」
 触れ合う肌の温みが回る。
「俺以外の人間をこれ以上誑かすな」
「阿呆。横でおんなしょっちゅう誑かしてるのは何処の何奴だ」
 身体を締め付ける腕の力が強くなった。
 明日は前線に行く。だからせめて今日だけは。今日だけは。
「俺ァ、ずっと此処に居んだろうがよ。テメーが目の前から消えねー限りな」
 聞いてるか…?聞こえてるか?
 銀時が催促しても高杉は答えず、微笑しながら、それでいて妙に闇の中で奇怪に光る双眸で銀時を見下すだけだった。

 

 

(了)

 

 

 

 

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