屋根を見上げれば、ちらりと覗く白い足。坂本はくすりと笑って、自身も上る。
「またおまんは此処か」
「…悪ィかよ」
 目もくれず、顔もあげず、腕を枕に寝転ぶ白皙の面は只管闇夜を見上げ。坂本もつられて空を見上げる。黒に浮かぶ藤紫の月。
「またアレ見ちょったがか。ほんに、おんしは月見が好きじゃの〜」
「好きじゃねぇよ。つか、何さりげなく隣に座ってんだよ。もじゃもじゃはどっか行けや」
「アッハッハ、冷たいの〜」
 返事は無い。紅の双眸がこちらを向く事は無い。銀時を見る坂本の目。
「───…」
 暫しの沈黙の後、坂本は静かに言う。
「不思議に思いはしやーせんか」
「あ?」
「宇宙は広い。そん中で考えれば、わしらの存在なんかちっぽけなモンじゃ」
「…」
「世界はまっこと広いのう。宙見てると小さな悩みは全部ぶっ飛ぶきー」
「お前に悩みなんかあんの?」
「アッハッハー泣いてイイ?」

 白髪頭はまた月に目を向け。

「何で月ってあんだろうな」
「…?」
「夜になりゃ出てくる。真昼でも光っている。いっつも頭上に居やがる。頼んでもいねぇのに、どこまでも付いて来やがる」
 坂本はぽかんと銀時を見つめた後、小さく噴出す。
「…何笑ってやがる」
「や、おんしの口からそんな台詞が聞けるとは思っとらんかったき」
「つくづく腹の立つ奴だな」
「スマン、つい、な。機嫌直しとおせ、銀時」
 白髪はつん、とそっぽを向く。坂本はそれを見てさらに笑う。

 知っとるか、銀時。月は公転運動と自転運動の周期がほぼ同じじゃ。…ちゅう事は、地球からは月の裏側は見えん。月は、常に同じ向きで回っとる。その表は地球の陰になっとるから、綺麗な儘だとしても、裏側の方が隕石の衝突を受ける事になる。わしらからは見えん月の裏側は傷ついて。それでも月は太陽の光を受けて、懸命にその裏側を隠しながら輝いとる。

「…何?公転?ワケわかんねーんだけど」
「アッハッハ、ともかく月は傷だらけの裏側を隠しながら、表だけを向けてわしらの周りをぐるぐる回っとるっちゅう話やき〜」
「ふぅん。何でそんな難儀なコトするんだか」
「………さぁなぁ」
 坂本が苦笑する。白髪は相変わらず月を見ている。白銀の光、それは月に似ている。

 

 

 自分は太陽になりたい。
 どこまでもお前を照らす、癒す太陽でありたい。呟きは風に邪魔され相手の耳には届かず、ただ月だけが白銀の光を煌煌と。

 

 

 

 

星の数ほど男はあれど 月と見るのは主ばかり