すっかり暗くなってしもうたなァ。
「誰の所為だ、誰の」
「其れを云うなら、おんしもろうが」
 花摘む云って、行ったっきり来ないと思ったら、まさか、道端で寝こけちゅうとは。そりゃオメーもだ。水汲むっつって帰って来ないと思ったら、何でウマイウマイ云いながらテメーが水飲みまくってんだよ!ちゃんとした水飲むのは久しぶりじゃったきぃ、ついつい…バカじゃねーの、バカじゃねーの!!

「ったく…こんなグダグダじゃあ、おちおち眠れたモンじゃねーよな」
 なぁ、御前ら。
 秋に吹く一陣の風。抱えた花が、攫われて思い思いに飛んで行った。
何処にでも、好きなトコに行きなァ!白髪は笑顔でそう云い赤い花を撒く。

 風が、吹き荒れた。その冷たさが、秋の終りを感じさせる。

 腕の中の花を全て失って、楽しげだった、子供のような笑い声も消えていって、白髪はゆっくりと空を見上げる。瞳の先に有るものを認めるには、この空は広過ぎる。…希薄、な、男。いつか行ってしまう。何処かへ。
「…銀時」
 男は白髪を背後から抱きしめる。
「うお、何だ急に!気持ち悪いから離れろや」
「冷たい風じゃき、寒いからくっつきとうせ」
 罵詈雑言を並べ立て反論し、腕の中で暴れる温もりを感じながら男は思う。
 誰より何より苦しんでいる泥濘の彼。
 今日も白髪は赤い花を撒く。
 きっと明日も赤い花を撒く。

 

「次の戦…終わったら話が有る。おまんだけに」

 

 白髪は何もかも見透かしたような眼でじっと顔を見た。その癖、ナニ、甘味所巡りの計画の話?等と小首を傾げる素振り。
「アッハッハ、中々手厳しいぜよ」
「んだよ、奢ってくれないワケ?」
 だから、俺はテメーが嫌いなんだよ。このモジャモジャ馬鹿…

  

 そうして素知らぬ振りして、今日も白髪は赤い花を撒く。
 きっと明日も赤い花を撒く。
 その次も。きっと、
 その次も。撒く。
 その次も。赤い花を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 覗き見とは随分と趣味が悪い。はしたなかろう。
「…」
 長髪の男。幼馴染という名目ではあるがいけ好かない奴でもある。
「此処に居る手前も同罪だろうが。善い子ぶりやがって」
「御前こそ其の偽悪趣味を改めたらどうだ。嘆かわしい」
「知った様なクチを叩くんじゃねェよ。殺すぞ」
「口の悪さは相変わらず彼奴と好い勝負だな」
「奴と一緒にすんなよ」
「妬心は身を滅ぼすぞ。貴様らはどうにも近過ぎる」
「妬心?クックック、馬鹿云うな。俺ァ奴が襤褸を出すのを今か今かと見てただけだ」
「…矢張り、貴様とは仲良くなれそうにないな」
 長髪が、眼下に眼を向けたのを追って、更に男は口を開く。
「何もかも無益な事でしか無ぇなぁ。醜い」
 手に赤い花。眺めている。
「弔いを無駄だと?」
「花なんざ、何に成る。仇討ちの為に今から敵陣に突っ込むだのした方が余ッ程ましだろう」
 じゃあ何だ。
 あの人が殺された時も、花を撒きゃあそれで満足だったのか?
 グシャリ、と花を手折る音がする。
「俺は、だからアレが嫌いだ。生温い自己満足に浸かって、少しでも安寧を得ようとする。手前らの其の偽善面がな」
「…誰よりも哀しみ嘆き怒っているのは、俺でも貴様でもなく、あいつなんだぞ」
 花弁が一枚、風に乗って飛んで行った。
「花は似合わねェ。だからアイツは刀を振るう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして素知らぬ振りして、今日も白髪は赤い花を撒く。
 きっと明日も赤い花を撒く。
 その次も。きっと、
 その次も。撒く。

 

 

 

 

 その次も。赤い花を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20100130 恭