「俺って、幸薄いんでさァ。可哀想な美青年なんでさァ」
「ふぅん、奇遇だね、俺も幸薄い美青年だからさぁ」
「土方という疫病神に取り憑かれて不幸真っ只中なんでさァ」
「ふぅん、奇遇だね、俺も君という疫病神に取り憑かれて不幸真っ只中だからさぁ」
てかさ、どういう体勢よ?コレ
事務所に来た久方ぶりの客、と思えばやって来たのは真選組御馴染みの青年。ソファに仰向けに寝ッ転がってジャンプを見ていた銀時を見つけるなり、ズカズカ脇目も振らずやってきて上から圧し掛かり。
「新しい遊びのつもり?どういう遊びだよ、何、さてはまた拷問SMプレイやる気か。冗談じゃねーぞ、俺やんねーからな」
「鍵開いてたんで思わず入ってきちまいました。やっぱいつ見てもボロくて殺風景な景色ですねィ」
「ちょ、何の為に来たの?オタクが何か仕事くれるとは思わないんだけど。用無いんなら帰ってくんない、てか重いわ」
細身とはいえ、大の青年を上に乗せるには流石にきつい。軽く睨めつけると、口元を覆っていたジャンプが沖田の手によって床に落とされる。そのまま近付く顔…
「オイ、ちょっと待て」
沖田の口元を押さえ、押し返す銀時。沖田は恨めしそうな顔をしている。
「何考えてんの?早まるな、早まるな、まず落ち着こう。そして俺の上から退散しよう」
「大人しくしてて下せェ、悪いようにはしませんぜ」
「何言ってんの?早まるな、早まるな、まず落ち着こう。だから俺の上から退散しよう」
「土方のヤローとはどういう関係なんですかィ、旦那」
銀時の目がさも嫌そうに細められる。
「その台詞、何回目かね。何で皆して疑うんだか」
「皆とは?」
銀時はしれっと問いを無視する。「濡れ衣だよ、濡れ衣。もう濡れ衣すぎてびしょびしょだよ、銀サンってば」
「股間がですかィ?」
「バカだろ、お前。いいから帰ってくれ」
「答えてくれねー限り、帰りませんぜィ」
「脅しか。汚ェお役人だな」
「役人が汚ェのはいつの時代も普遍の法則ってモンでしょう」
…もう一度聞きやす。アンタ、土方とはどういう関係なんだ。
沖田は下を向いている。目元は前髪に隠れ、銀時には見えない。
「どーもこーも無ェって。関係もクソも無ェけど」
「あの一週間以来、奴は変わっちまった」
アンタと深く関わるようになってから。奴は。
「…知らねーけどよ。んで、俺にどうしろっての」
「俺は奴が世界で一番嫌いで憎い。俺の大切なモン、いつでも横から掻っ攫っていきやがる。だから、アンタが奴の大事なモンになったってなら」
「奴が一番大事にしてんのはお前らだろ。他でも無い、真選組だろうが」
沖田が顔を上げる。銀時は沖田を凝ッと見ている。目の前の男は、なおも口を開く。
「俺を勘繰るのはお門違いってモンよ。わーったらさっさと帰った帰った」
「俺だって」
「沖田、好い加減にしろ」銀時の硬く低い声。沖田は銀時の襟元を掴み、俯き搾り出すように言う。
「俺だって、…アンタが、好きなんだ…」
違うな。遮る声。静かな声。
「お前が好きなのは俺じゃない、アイツだろ?」
「違う」
「そう思い込もうと自分で暗示かけてるだけだ」
「違いやす」
俺は、死なない人が好きなんでさァ。散らない花が、俺の前から消えないものが、死なない人が…
「その台詞も聞き飽きた。どうしてどいつもこいつも…ったく」
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