わーっ雪だ雪!
「本当だ。久しぶりですね、雪は。綺麗に積もっている」
 一斉にはしゃぎ出す子供たちを見て、松陽は微笑む。曇天の空から雪が降る。美しい景色に、寒さをも忘れる心地がする。
 高杉が、いの一番に走っていって、にししと笑いながら早速雪玉を作り始めた。
「おーいヅラ、雪合戦しようぜ!」
「ヅラじゃない、桂だ。…何を云うか、俺は雪だるまを作るのだ。雪合戦などとガキ臭い遊びは、俺はもう卒業したのだ」
「何いってんだよ、オマエそんなんだからヅラなんだぜ」
「ヅラじゃない、桂だ…おぶっ!何をする!いだだだだ、ちょ、タンマだタンマ!」
 先手必勝とばかりに、高杉がもう雪玉を投げ始めた。一方的に当てられる桂は痛そうだ。おのれ〜高杉ィィ!!メラメラと復讐の炎を燃やし、せっせと雪玉を製造し始めた桂を見て、松陽は苦笑い。

 銀時は、一人で路傍にしゃがみこんでいる。
「どうかしましたか、銀時。もうおんぶはしませんからね、君重いんだから」
「ちげーよ、しょーよー。見てただけ」
 この子供は、言葉が足りない。
「何を?」
「草」
 松陽が覗き込む。銀時の目線の先には、小さな笹。白い淡雪を載せ、頭を垂れている。
「ああ、これは笹ですよ」
「草は草だもん」
「…や、そうですけど…」
 子供は、じっと笹を見ている。
「重そう。辛くないのかな」
「辛い…?」
 笹を心配している。子供の感性には大人は感心されっ放しだ。
「銀時は、優しいですね」
 子供は目線を上げない。もしかしたら照れているのかもしれない。松陽は微笑んで、笹に眼を向ける。
「確かに重そうです。でもね、触ってごらんなさい、銀時。雪、払ってあげて」
 子供は云われた通り、笹に手を伸ばした。雪を払い除けた途端、ピンと直立する小さな笹。
「わ、立った」驚く顔。
「ね?すごいでしょ」
 私も、こういう風で居たいなぁ。年老いて腰曲がっても、背負ったものが重くてふらふらしても、いざという時には、魂だけは、シャンと真っ直ぐ立てるように。
「しょーよー、でも姿勢悪いじゃん」
「…そういう事言ったらダメです、折角いいこと言ったのに、台無しでしょ」
 銀時がぶうたれた。何がいいことだよ、ただのいつものワケ分かんない説教じゃねーか!
「はいはい、大人になったら分かるようになりますよ。大人になったらね、もっと勉強しとけば良かった、とか思うモンなんですよ。先生の話聞かないで、後で後悔しても知りませんからねー」
「フン!誰がするかよ、こんなワケわかんない人の話なんか!じゅぎょーもつまんないし!」
 言った途端、銀時の顔に雪玉がばこーんとぶつけられる。衝撃で仰向けに倒れた銀時につかつか近付き、怒声を上げるのは高杉だ。
「てめー、さっから聞いてれば、先生相手に何てクチきいてんだ!そこになおれ、俺がてめーのひん曲がった根性叩きなおして礼儀っつーモンを教えてやらァ!」
 銀時がむくりと起き上がり、顔の雪を頭を振って払う。立ち上がり、にやりと不穏な笑み。
「盗み聞きたぁ全くさいてーなやろーだ…おれの方がてめーに礼儀を教えてやらァバカスギ!」
「んだとクルクル天パァァァ!」
 銀時も雪玉をせっせと作っては高杉目掛けて投げている。高杉が顔に一撃食らって、反撃しようとしたところで、今度は桂から雪玉を食らい。一対二だ。
「きみたちー風邪ひかない程度にするんですよー!」
 松陽の声は遠い。雪は止まない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 路傍の笹。
 雪を載せて震えている。
 銀時は微笑み、買い物袋を持ったまま、その前にしゃがみこんで、呟く。
「…頑張ってんな、同志」
 前を行く新八と神楽が振り向いた。
「え?何か言いました、銀さん」
「何でもねぇよ」
「とうとうアルツハイマーアルか、銀ちゃん」
「ちげーよ」神楽の頭をパコンと叩く。
 神楽の石頭には何のダメージも無いらしく、彼女はニヤニヤ笑っている。
「フフーン、どうだか。さ、アルツハイマーと疑われたくなかったら私を背負うヨロシ」
「や、ワケ分かんないから!アルツハイマーとお前の間には何の関係もないからねソレ!てか、お前が単におぶって欲しいだけだよねソレ!」
「だって疲れたアル、足痛いし」
「僕も足痛いです。だって昨日の仕事ハード過ぎましたよ、アレ」
「ハイハイ、もーうっさいお前ら!俺ァ絶対おんぶなんかしねーからな、だって重いもんお前ら!てか二人合わせたらもう百キロ近いだろ、無理だってそれおんぶとか!」
「グダグダ抜かさないでさっさとおんぶしろヨこの腐れ天パ」
「うっさいのはアンタですよ、この糖尿ダメ人間」
「何?何なの?キミたち、反抗期なの?」
 問答無用、とばかりに新八がまず背中にタックルし、その上に更に神楽が圧し掛かる。ぐぼぉと悲鳴をあげ地面に倒れ伏した銀時は当然ながら一歩も動けない。
 ちょ、待…重い重い重い!死ぬ!何か出る、内臓的なモノが!
「あ、神楽ちゃん、ダメじゃん買い物袋までぶん投げたら!」
「間違えたネ」
「あーあーアレ、卵割れちゃってるよ、多分。当分卵かけご飯なしになっちゃうよ、アレ」
「マジでか!オーマイガッ失敗したヨォォォ!」
 オーイ、チミ達、そんな会話しないでさぁ、どこうよ。銀サンマジで死んじゃうよ?

 

 

 

 笹と眼が合う。銀時は笑う。

 

 

 見てるか。俺、必死に生きてるよ。

 

 

 

 

「…ちょっとちょっと、銀さん、何ニヤニヤしてんすか。気色悪いですよ、さっきから。独り言は言うし」
「さてはドMか、私達に乗られて快感感じちゃってるアルカ。キャー変態!おまわりさんンンンン!ここに変態一丁アルゥゥゥゥゥ!!」
「おま、止めろォォォォ!これ以上騒ぎを大きくするのは止めろォォォォォォ!!!」

 

 

 

腰が曲がろが ふらふらしようが ()わりゃピンと立つ 笹の雪