「おつかいおつかい〜フフンフン〜」
変な鼻歌を作曲する銀時に、げっそりと高杉が言う。
「おまえはいいな…いつも楽しそうで」
「や、楽しくはないけど。おまえと一緒だし、むしろキゲンちょ〜わるい感じだけど」
「おれだっておまえとなんか行きたくねぇよ!」
いつもいつも顔を合わせれば喧嘩しまくっている二人を見かねて、松陽が二人をおつかいに出させたのである。という訳で何処まで行っても自業自得である。
「ったく、悪いのはコイツだってのに…何でおれが」
「ぶつぶつインチキにしゃべるなよ〜たかすぎ」
「インチキじゃなくてインキな…陰気」
間違いを訂正するだけでも疲れ、聞き捨てならぬ悪口に反論する気も起きない。
「それより探そ、おつかいのもの。ええとね、しょうゆと、おせんべいと…あと…この漢字なに?」
「そりゃネギだ。こんな字もよめないのか?ばかだな」
しまった、と高杉が思う前に、もう銀時はぷりぷり怒り出している。無限ループだ。
「馬鹿すぎにいわれたくねーよ!」
「んなっ…その呼び方ヤメロっつってんじゃん!」
街の往来でぎゃあぎゃあ騒ぎ始めた二人、そしてそれを近くの家屋の影から見守る怪しい影が二つ。
「先生…またあの二人騒ぎ始めましたよ」
「全く迷惑極まりないですね、銀時と晋助さんたら」
名前は、言わずもがなである。
「それにしても、先生。アイツらおれ達に気付かないんでしょうか?こんなに近くに居て、しかも結構大声で話してるのに」
「大丈夫ですよ、馬鹿だから」
さらりと、かなり酷い事を云っている。
「それにしても、先生。今日村塾の方は大丈夫なんでしょうか?心配だから監視、とか云って二人で出てきてますけど」
「大丈夫ですよ、自習にしてきたから」
まさかの無茶ぶり。しかし、師匠を敬愛する桂は、その一言一句に感銘を受け、「なるほど」と頷きながらメモをとっている。今のどこらへんに、メモをとらなければならない要素があったというのか。
「あっ 動きました二人とも。行きますよ小太郎さん」
「先生、楽しそうですね」
「これを楽しまない手はないですよ。名付けて、おつかいドキドキ!仲良くにこにこ友情作戦ですからね!」
「なるほど!!」
ぱああ、と顔を輝かせてまたメモに書き書き。(ちなみに、桂の後世のセンスの無さは、ここから来ていたりする。)
「あ、八百屋に行きました。ネギを買うみたいですね、先生」
「まず、銀時と晋助さんが、八百屋に行けばネギが買えると知っていた事に、私は猛烈に感動しています」
小さい影二つ、八百屋に入っていって、おじさんに話しかけている。銀時の両手には山ほどネギが。
「あああ、あんなにいっぱい要らないのに…」
「分量伝えなかったんですか、先生」
「面倒だから、商品名だけ書いて渡したんですよね。失敗だったかな〜」
「ちゃんぽらんな銀時はともかく、高杉の方も、坊ちゃんで末っ子ですからね。世間知らずにも程があります」
「全部買ってしまいました!ああ、そんな事したら他のもの買うお金が…八百屋のおじさん、止めてくれないと困りますよ〜、どこにそんな大量のネギを買い込む子供が居ますか」
「商人って汚いですね」
一方、当人たちは「これだけ買っとけば当分困らないだろう」等とのたまい、妙に満足げである。
「あ〜あ、知ーらない。私知らないよもう。当分ネギ尽くしですよコレ」
「なるほど…ネギ尽くし、と」
桂は何をメモっているのか、気になるところである。
「次は駄菓子屋に行きましたよ」
「昨日無性にせんべい食べたくなったから、これも頼んだんです…って、ああああ!!」
駄菓子屋の窓にぴったりはりついて、二人を伺っていた松陽が、またも声をあげる。背が低い桂は、窓を覗く真似が出来ないので、傍らで小首を傾げた。
「どうしたんですか、先生」
「ま、またあんなに買い込んで…見て下さいアレ」
「だから見えないんですってば」
「しかも、晋助さんったら、さりげな〜く飴玉買ってる…私のお金なのにひどい!ちょろまかする気ですよアレは!見て!」
「だから見えないんですってば」
両手にネギを抱えた銀時、両手にせんべいを抱えた高杉が店から出てきた。二人とも、何かをその中に含んでいるような口をしているから、ちょろまかした飴を舐めているに違いない。
「銀時…おつかいに頼んだモノ以外は絶対買うなってあれほど云ったのに…」
「甘いモノに目が無い奴ですから、大方、高杉に悪知恵吹き込まれて、二人で共犯働いたんでしょう」
「晋助さん…」
「ホラ、先生行きましょう。はぐれて見えなくなっちゃいますよ」
ごごごごご、と松陽の背後に怒りの炎が見えるのを、桂はしらっと無視する。
「次は何を頼んだんですか?」
「調味料を。お味噌とお醤油」
松陽が答えたと同時に、二人の少年の絶叫が聞こえてくる。
「何だよ!ウソつきやがって…味噌なんざ初めて聞いたぞ!」
「ウソじゃねーよ!わ、忘れてたの!」
「どうすんだよ!金足りねーじゃん…クソ、あと醤油だけだと思って計算してたのに!」
「高杉だって、飴玉買ったりするからじゃん!アレ買わなかったらお金足りてたもん!」
「アレはおまえだって賛成してたろ!」
「…どうやら、計算間違えたみたいですよ。お金が足りないって」
「そりゃそーですよ。あんなにネギにおせんべい買い込んだら…ああ、当分ネギとおせんべいで凌ぐしかないですね」
「なるほど」
だから、桂は一体何をメモしているのか。
「にしても、どうするんでしょう、銀時と晋助さん。調味料が無い、っていうのも困るんですけど…それにしても、かなり大目にお金渡したのに、もうすっからかんとは。二人とも、恐るべし」
「なるほど」
…桂は一体何をメモして(以下略)。
結局、味噌と醤油も買わずに二人は出てきた。場所を移動して、川原に行き着く。ここで、座りながら対策を考える気らしい。
「あー、どうすっかな。金が無ェ…」
「じゃあ、もっかい先生んトコ戻ろ、高杉。そんでお金貰いに行くの」
すかさず陰で見守る松陽は、あれだけ無駄遣いしといてまだタカる気ですか銀時、と拳を握り締める。
「バカ、戻れるかよ。まずこの飴を隠蔽工作で食べてからだな」
ぬ…ぬかりない。流石ですね、晋助さん。
そりゃそーです先生、何たってあの高杉ですから。
「石、何回跳ねっかな。行くぜ…っせーの!」
「けっ、しょっぼー。おれのほうが飛ぶぜ、見てな銀時」
「なにおう、おれのほうが!」
「いーや、おれのほうが!」
対抗心むきだしにして石投げに熱中する二人。幾ら松陽と桂が睨めど、進展は見えない。
「…というか、彼ら、当初の目的忘れてるでしょ…おつかいはどうしたんでしょう、おつかいは」
「でも、先生の作戦は成功なんじゃないですか?おつかいドキドキ!仲良くにこにこ友情作戦の名に相応しく、今は銀時も高杉もにこにこしてますよ」
「何ですか、そのセンスの無い作戦名は。おつかいドキドキ!仲良しにっこりばぁにんぐ友情大作戦でしょ、私が云ったのは」
「アレ?そうでしたっけ…」
お互いバカである。
「こう、二人が遊びに熱中し始めた以上、しばらくはここから動かないでしょうね、はぁ…じゃあ、ちょっと、厠に行ってきます。小太郎さんはここで待ってて下さい。くれぐれも見つからないように」
「分かりました」
松陽が、歩いて二人から離れて行く。
「あ、飴もうなくなっちゃった。…にしても、この飴おいしいのな、高杉!」
「フン。おれの見立てに間違いは無ェ。買って正解だったろ?」
「だいせいかいだぜー。あ、あと二個しかない!へへ、早いもん勝ち!二個とももーらいっと」
「あ、バカ!何やってんだよ、ちゃんと一個よこせ」
「やだよ。あーん、ホラ、二個とも食べちゃっらモン」
これ見よがしに、おいひ〜と満足げな笑顔を見せる。が、小さい口が二個の飴で所狭しと埋め尽くされているため、ろれつがまわっていない。
「こんにゃろ〜〜〜〜ゆるさねぇッ!!」
「わ、あぶな…!れんめェ、たらすひ!(てんめぇ、たかすぎ!)」
掴み掛かろうとする高杉を、ひょいひょい持ち前の身軽さでかわす銀時、だが、足元の草で滑り、体勢を崩す。
「あ…」
「はっはっはーー!銀時討ち取ったり!」
どすん!!!
高杉が銀時に飛びかかり、馬乗りになったその瞬間、銀時の両目がかっと見開かれた。
「ぐっ……うう…ッ!!!」
途端に苦しげにもがき、自身の首を掴む。
「…銀時?」
高杉が異変に気付き、銀時から離れると、銀時は自分の喉を掻き毟りはじめた。
「がッ…う…うううう!!!」
「あ…ぎ、んとき」
飴が、喉につまったのだ。
飴を二個口に入れて、走り回った。そして仰向けの状態で高杉に馬乗りになられたせいで飴が銀時の喉に引っ掛かったのである。
銀時は呼吸も儘ならぬようで唾液を口の端から垂らしながらもがいている。
「銀時!」
「いかん!先生を…!」
緊急事態に、陰で二人を見守っていた桂が松陽を探しに走っていく。それにも気付かず、高杉は真っ青な顔をしている銀時を抱き上げ、下を向かせて背を叩いた。弱弱しく痙攣するその身体。高杉は云い様の無い恐怖を感じる。冷や汗がどッと体中から噴き出た。
「飴、出せ!銀時!この…っ!」
が、取れない。出てこない。
口を開けさせ、中を見る。見えない。また、力任せに背中を叩く。
「ちくしょー!出せってば!!銀時ぃ!」
どうしよう。取れない。飴。
唾液を垂らし、目を見開き、喉を押さえて呻き必死の形相で苦しむ少年。こんなの、銀時じゃない。あいつは、眠そうな目をしてて…こ憎たらしくて…こんなの…こんなの…
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
銀時が。
…銀時が死んでしまう。
「ひぐっ…先生…助けてよ…銀時が死んじまうよぉおおお!!!」
渾身の力で背中を叩くと、大量の唾液と共に、飴玉が二つ、飛び出て地面に転がった。
「!!」
涙と汗に塗れた高杉がそれを見届け、腕の中の銀時を揺り起こそうとする。
やった…出た!助かる!
「銀時!起きろ!」
激しく揺さぶる。顔を覗き込むと、ぞっとするほど白く、紙のような色。頬をぺちぺちと叩く。
「ぎんとき…?」
動かない。
「起きろよ」
起き上がらない。
「なぁ…もう飴…出たじゃねぇか」
返事は無い。反応も。
かたく閉じられた瞼は、ぴくりともせず、身体は冷たい。
息…してない…
「銀時ぃ!起きろよ!寝たフリすんなよオオおオ!!」
いき。
してない。
しぬ。
「そ、そうだ。人工呼吸」
先生の話を思い出す。口をつけて、息を吹き込むやり方。
そうしたら、息するかもしれない。
迷う暇も無く、高杉は銀時のくちびるに口をつけた。ひんやりしていた。ふうっと呼気を吹き込む。無我夢中で、それを十回くらい繰り返した。
息も絶え絶えになってきて、口を離して、高杉は銀時をもう一度見る。
ぎんとき。
何度も呼ぶ。声は、掠れていた。
返事は無かった。
からだは、冷たかった。
目の前が真っ暗になった。
からだは、動かなかった。
涙が勝手にあふれてきた。
まぶたは、開かなかった。
もう、うごかなかった。
にくたらしいクチをきくその唇も。
眠たそうな目も。
細い手足も。
みんなみんな、もう。
うごかなかった。
「銀時!晋助さん!!」
松陽が走ってくる。その後ろに桂。
高杉は、放心していて、顔を蒼くして駆け寄ってくる彼らを、ぼうっと見ているしかなかった。
「どきなさい晋助さん!…銀時!」
割り込んできた松陽が、銀時の首、頚動脈に手をあてる。脈をはかっている。
奇妙な沈黙だった。
その静寂の中、やがて、松陽は、銀時を抱き上げ、ゆっくりと立ち上がる。桂が、震える声で聞いた。
「先生…銀時は…」
松陽が、黙って、首を横に振る。
「そ…そんな…」
桂が俯いた。
「ええ。銀時は寝てますよ」
「…え?」桂。
「…」高杉。
「だから、寝てますって。生きてますよ、バリバリ」
「寝てる…って、ええええええええええええええええ!!!!!」
絶叫する桂の横で、高杉が、へなへな、と座り込んだ。
「晋助さん、銀時が詰まらせていた飴はもう出たんですよね?」
「…は…はい…」
「じゃあ、その飴が取れた時点で、もう息を吹き返したんでしょう。今はショックで気を失って、寝ているだけです。もう大丈夫」
とりあえず、村塾まで戻りましょう。話は其れからです。ホラ、小太郎さんと晋助さんは、おつかいの荷物を持って下さい。私は銀時を運びますから。
テキパキと指示を出し、銀時をおんぶして、サクサク歩いていく師匠に唖然としながら、少年二人は慌ててその後を追う。…余りに、一度に色々な事が起こったせいで、未だに状況整理が追いつかないのだ。
死んだ?生き返った?銀時。ワケわからん…頭を抱えたい高杉。だが、両手に抱えたおせんべいがそれをゆるしてくれない、という、まさかのおせんべいの暴挙である。ひどすぎる。
●●●●●
案の定、目をさました銀時は元気全快の有様である。
「そうそう、飴ねぇ。つまらしたな〜めっちゃ苦しい。アレ死ぬかとおもうよ」
「馬鹿者!そもそもだなぁ、飴を口に入れたままで走り回ったりするから、そんな事になるのだぞ、銀時!」と桂。
「ちげーよ、そもそもだなぁ、おまえがキレておれにつかみかかったりするからそんな事になるのだぞ、高杉!」と銀時。
「ますますちげーよバカ!そもそもだなぁ、おまえが飴二個とも口に入れたりするからそんな事になるのだぞ、銀時!」と高杉。
「ハイハイ、分かったから静かにしてなさいよ貴方達!特に銀時は、呼吸不全でさっきまで気を失ってた位なんですからね、寝てなさい!」
「…ふぁい」
不満げにむくれて、また布団に潜る銀時。桂・高杉・松陽の三人は、銀時の布団をぐるりと取り囲むかのように座っている。
「ホラ、銀時。そして晋助さんに御礼を云いなさい。貴方を必死で助けようと、誰よりも頑張っていたのは彼なんですよ」
銀時が目をみはった。
「…そうなの?高杉」
じっと銀時がこちらを見ているのに耐えられなくて、高杉は僅かに顔を高潮させ、顔をそむけた。
「そうですよ、銀時。晋助さん、飴が出ても銀時が起きないものだから、息していないって勘違いしたらしくてですね、わんわん泣いてるわ、その上じんこうこky「あーあーあー!!!」
顔を真っ赤にした高杉が飛び上がり大声をあげ、松陽の声をむりやり掻き消す。
大人の余裕をみせつけ、にやにやする松陽(全くもって大人とは嫌なものである)、これまで見た事の無いくらい顔を紅潮させている同期生を、なまぬる〜いジト目で見ている桂(大人ぶりやがってムカつく)、きょとんとしているニブチンの銀時(コイツはただのバカ)。
微妙な沈黙。
銀時が、目を瞬かせる。
「な、なに?じんこきゅ…?」
「違いますよ、人工呼「あーあーあー!!!」
「うるさい、高杉。何を照れておる。人命がかかっていたのだから、仕方あるまい。…まぁ、結局は御前のはやとちりだったワケだが」
「そうですよ、晋助さん。何を照れる必要がありますか」
といいつつ、相変わらずにやにやしている松陽。高杉は、この時ほど、敬愛してやまない師匠を殴りたかったことはない。
「だから、なにって聞いてんじゃん!じこきゅってなに?」
頬を膨らませて駄々をこねる銀時。すかさず、素早い桂が、高杉の口を塞ぐ。
「むぐっ…へめ…うあ!!ふむまいおお!(テメ…ヅラ!裏切り者!)」
「じこきゅじゃなくて、人工呼吸ですよ。相手の口に、自分の口をつけて、息をふぅ〜って吹き込むんです」
「…おれの口に、高杉が…?」
「そうですそうです」
「めんえーおあまああああああ!!(せんせーのバカアアアアア!)」
高杉の叫び。
上目遣いに銀時がチラっとこっちを見たのにドキリとする。また顔が熱くなっていく。
「ふうん…高杉が…」
松陽は何故か満足げだ。
「そうですそうです」
「なぁ、しょーよー。口と口をつけるって…それ、“きす”っていうんだろ?」
「そうですそうです」
いや、ニュアンスがちげーだろソレ!高杉の叫びは声にはならない。それを阻んでいる張本人の桂は、高杉に同情的な視線を送る。
やめろおおお!!おれをそんな目で見るなぁぁぁぁぁぁ!!!
「おれ、こないだ、屋台のおっちゃんから話聞いたよ。“きす”したらね、男ならセキニンとって“ヨメ”もらわなきゃなんないんだよ」
「そうなんですか〜先生、それは知らなかったなぁ」
間違いなく、松陽のあの顔は笑いをこらえている。高杉はムゴムゴいいながら必死に暴れるが、桂の束縛はビクともしない。
「そうなんだよ。でも…このバアイは、どっちが“ヨメ”になるのかな〜。しょーよー、どう思う?男ならセキニンとれって、おれも高杉もどっちも男だぜ。どっちが、セキニンとって“ヨメ”もらうのかな」
「…ふ…そりゃ、キスしたのは晋助さんなんだから、晋助さんが責任取るべきじゃないですか…くくく」
もう笑ってるし、先生ェェェェ!!信じてたのにいいいいい!!!
「そっか〜。じゃあ、おれが“ヨメ”か。しゃ〜ね〜な〜、高杉、しかたないから、おまえの“ヨメ”になってやるよ」
怪訝な顔をした桂が、口を挟む。
「…銀時。御前、“ヨメ”の意味分かって云っているのか?」
「なんか、役柄みたいなモンだろ?」
「役柄…たしかに…ぶほっ」
松陽がとうとうげらげら笑い出した。
「きっと、銀時なら、いいおヨメさんになれますよ。ねぇ、晋助さん」
高杉の返事はなかった。桂の手が口から外れたにもかかわらず、床にうずくまり膝をかかえ、ものすごく落ち込んでいたからである。
●おまけ●
「ホラね、小太郎さん、やっぱりうまく行ったでしょ、私の作戦」
「おつかいドキドキ!仲良しにっこりばぁにんぐ友情大作戦ですね、先生」
「何ですか、そのセンスの無い作戦名は。おつかいドキドキ!仲良しにっこにこすぅぱあふぁいあ友情大作戦でしょ、私が云ったのは」
「アレ?そうでしたっけ…」
やっぱり、バカである。
「ほらほら、結局ふたりとも籍入れる事になっちゃったし…ぷぷぷ、銀時が奥さんで、晋助さんが旦那さん…なんてお似合いなんでしょう!もう、私、縁結びの神様ですよね。神懸り的ですよ。ホント、今ならなれる気がする。神に」
「なるほど」
だから、メモるな、桂。
「先生、何で最近ネギとせんべいしか飯出て来ないんですか…」
高杉が障子をあけて入ってきた。二人でぱっと口を塞いでイソイソそわそわする。ウソや隠し事が天才的に苦手な、桂と松陽。不審すぎる。
「あはは、今日は好い天気ですねー晋助さん!うん、素晴らしい!実に!」
「…今日、雨ですけど…」
「…」
「何か、隠し事、してません?」
「しししししてないぞう高杉!断じてそんなもの、親友であるキミにするワケが無いじゃないかあ〜わはははははは!!!」
「…」
じろり。
ぎくり。
睨み合いはつづく。
「…そういえば、おれ、ちょっと思ってたんですけど…」
こないだの件。
なんで、すぐ二人とも駆けつけてくれたんですかね?しかも、二人とも何もかも事情知っているかのような顔して…通りすがりにしてもそれはおかしい。しかも、あの時、講義中でしょ。おれと銀時だけがおつかいに出されたはずで、その他の人たちは授業を受けていたはず。ヅラ、テメーも。そして、先生は授業してたハズなのに…
「あはっあはははははは」
松陽の目が、あらぬ方向を泳ぐ。
桂が、ぬ゛〜ぬ゛〜と、妙な声をあげて、寝たフリをする。
「まさか…とは思いますが」
ツケてたんですか。おれたちの事。
ってぇ事は、最初から、あのおつかいも、おれたちの仲違いを復元させようとした目論見で。なるほど。姑息なマネしますね、あなたたち。
「そんな事云って、貴方たちも私のお金で飴なんかコソコソ買ってたじゃないですか!味噌も醤油も頼んだのに…しかもネギとせんべいあんなに買い込んで…ぐすっ」
松陽必殺、逆ギレ&泣き落としである。大人とはえてして不条理なものである。
おわり |