男は問い続ける。
 何故。何故。何故。

 同じ「始まり」の記憶。同じヴィジョンの共有。
 其の癖、誰よりも深く昏く果てしない絶望と激憤と悲嘆と怨嗟の念を、…あの男。

 何故。何故。何故。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて其れも倦み厭きる。
 故、男は哂い続ける。
 涙も腐る時分。否、───…涙等。

 

 

 

 

 

 

 

 眠りたくない、と云った。眠ると悪夢を見る。
 とんだ阿呆だ。
 寝ても起きても御前の見ているのは悪夢だというのに、当人は其れにも気付かず、斬っては傷つき、斬っては傷つき、誰にも縋らず弱味も見せず斬って斬って斬って自分を憎み憎み憎み、
 …ならばいっその事其の名の通り夜叉にでもなれ何も感じず考えず刀を振るい続けろ、と云うと、そうだなぁ、と微笑して鬼の面を自ら被り。何度も立ち上がる。休もうとしない。眠ろうとしない。枝に止まって羽を休める事をしない。だから羽を毟れない。忘れろと云っても忘れぬ。
 俺に何が出来た。
 だから抱いた。
 滅茶苦茶にしてやった。罰を欲していたから与えた。
 せんせいは何処?せんせいなら、屍骸に埋め尽くされたここから連れ出してくれるのに せんせい…もう居ない、誰も来ないオレガコロシタカラ
 …そうだ、御前が殺した。熱に浮かされたように呟く声にそう云い返して力任せに貫き屈服させ蹂躙し跪かせ俺が被らせていた鬼の面を剥がし。そうして奴は満足している。その時だけは忘れられる、そして殺された気にでもなっている。馬鹿め。馬鹿は死ぬまで直らない。死んでも直らない。俺はずっと彼奴を殺したかった。

 

 白夜叉なんざ初めから何処にも居なかった。
 居たのは只の縋れない泣けない孤独な子供だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秘めている憎悪の獣を引き摺り出す。
 其れが駄目なら樂にして遣り、駄目でなくとも何度も貫いて遣ると云うのに、あの男は今尚悪足掻き、餓鬼を連れてあの人の真似事。其れで罪滅ぼしの心算か。


 男は哂い続ける。男は問い続ける。
 何故。何故。何故。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …誰も愛せない癖に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 護るというなら其れも良かろう。
 ならば俺は御前が何処まで堪えられるか試してやろう。
 だから総て壊す。ハハハハハ

 

 

 

 


 矢張り愛して等居なかった。
 だから殺す。
 だから、此処まで、御前の羽を毟る事だけを考えて居られる。
 だから殺す。
 だから、此処まで、御前の悪夢を終らせてやる事だけを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御前死んでも寺へはやらぬ 焼いて粉にして酒で飲む