「花は桜木 人は武士」
…」
 何故潔しが古来から好しとされるのか。どう思う。
「さあな。綺麗だからだろ」
「いかにも興味無さそうなその言い草。手前は実に分かり易い」
「お褒めの言葉、アリガトウゴザイマース」
「桜は好かねェか」
「いや、嫌いではねーけどよ」
「じゃあ何だ」
「ただ、散り方がなぁ。面倒くせぇというか、もっと一気に散ればいいものを、だらだらと、わざわざ見せ付けるかのように」
「桜の散り方を怠慢と呼ぶか。クク、初めてお目にかかったぜそんな奴」
「俺、皆の好きなモン嫌いなの。天邪鬼だから。オメーには負けるが」
「よく言うぜ…」
「コラ、またお前たちは喧嘩か?四六時中、顔を見合わせれば喧嘩しおって、その癖矢鱈とくっ付いているし、仲が良いんだか悪いんだか」
「仲悪ィんだよ。いっつもコイツがちょっかいかけてくんの。俺の事好きだから、コイツ」
「好きじゃねーよ。馬鹿だろ、御前」
「んだと、オメーに云われたくねぇよ、このスットコドッコイ」「…丁度好い、新しいこの刀の切味、手前で試してやるよ。喜べ銀時ィ」「ハン、俺なんか今二刀流の練習中だからね。返り討ちにしてやるよ」「だから止めんか貴様ら!全く、云ってる傍から此れとは」「「るせーよヅラ引っ込んでろ」」「ヅラじゃない、桂だ」「アッハッハ、楽しそうじゃの〜おまんら!わしも仲間に入れとおせー」「「るせーよ毛玉すっこんでろ」」「アッハッハ、泣いてイイ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

勧 君 金 屈 巵
満 酌 不 須 辞
花 発 多 風 雨
人 生 足 別 離

 

 

 

 


もうちょいだよ。踏ん張れオイ、絶対ェ、俺が助けてやるからよ
…捨ててってくれ 俺ァ、もう助からねェ
何言ってやがる、昨日の花見で嫁さんと子供残してここまで来たって胸張ってたじゃねぇか。
こんな所でくたばってどうするよ、会いたくねーのかよ、テメーの妻子に。分かったら弱音吐くんじゃねぇ
…こんな父親なんざ、生…きていて、…も…
馬鹿云ってんじゃねーよ、生きろ、嫁さんの為に。子供の為に。生きろ。生きてくれ。

…オイ、返事しろ

返事しろって!黙ってんじゃねぇぞ!

…頼む…返事…してくれよ…

 

 

 

 

 

 

 雲一つ無い青天の春、絶景かな。


「…銀時」
 秀麗な顔は曇る。だが白髪は無視して、何時も通りの気のない顔

「只今」
「…その者は…」
「おう。帰ってきたばっかだけどよ。ちょっくら出てくるわ。コイツ、ちゃんと眠らしてやんなきゃなんねぇし。静かで落ち着ける場所にさ。飯は先に取っててくれ。風呂も沸かしてくれなきゃヤだぜ」
「…」
 背中に視線を感じつつも、知らぬ振り。白髪は空を見上げた。
「ったく、嫌になる程イイ天気だ。嫌味かってんだコノヤロー」

 

 

 何処からか甘い花の馨が漂う春、絶景かな。

「お、金時。何処行く」
「金時じゃねぇっつってんだろ!何回云わせる気だテメー!」
 男の顔は矢張り僅かに曇る。それにも白髪、知らぬ振り。
「…おんし、背に背負っちゅうのは」
「あ?コイツ?だから、今から寝かしに行くんだよ。ここじゃあ、おちおち眠れたモンじゃねぇとよ。ったく、重いったらありゃしねェ」
 一瞬、男が見せた、傷みを堪えた時のような表情。だがそれもすぐに消える。
「そうか。なら、すっと行ってきとうせ、でないと、おまんの分までわしが飯食うちゃるぜよ〜アッハッハ」
「おま、そんな事したらマジでぶっ殺すかんな!……クソ、春だからって、花の馨がプンプンしやがる。こちとら戦帰りで腹減ってるっつぅのに、甘いウマそ〜な匂いさせやがって」

 

 

 可憐に桜舞う春、絶景かな。

「…戦場から死体背負って、此処まで来たのか。ご苦労な事で」
「るせぇよ。オメーこそ何で此処にいンだ」
「墓を掘ってた」
 ざくり。昨日の宴席で自慢していた自分の刀を、土の山に刺して。

「…新品じゃなかったのか?ソレ」
「もう此れァ使えねぇ」
「何故」
 物憂げな伏し目。男にしては大分長い睫の影の底で、鶯色の瞳が瞬く。このいろは、春には好く似合う。
 やがて、男は口を開いた。
「両手両足斬られた男。死なせてくれ、と俺に云いやがった」
「まさか…」
「だから斬った」
「───惨い、事を…」
 喉を鳴らす、獣のような嘲笑。
「なら、生かしておけば良かったのか?もう助かる見込みもねぇ。死にきれず、激しい痛みにのた打ち回るだけ。そんな状況で、『生きろ』と?ハハ」
 掴み掛かられた。背負っていた屍骸が、衝撃で背中から滑り落ちた。
「どのクチがほざきやがる。手前も同罪だろ。救えずに殺した。御前が殺した」

 ああ、だから俺はこの男が好きなんだ。
 可笑しさと愛しさが同時に込み上げてきたので、白髪は衝動に任せ目の前の男に口吻ける。轟と、吹き荒れた桜吹雪。嵐がやってくる。

 

 

 春。
「死ぬ時はさっさと死ね」
 
雲一つ無い青天の春。
「ナァニ、それ、俺にお願いしてんの?」
 何処からか甘い花の馨が漂う春。
「俺が殺してやる」
 可憐に桜舞う春。
「傷心的だこと」
 刀を振るう春。
「苦しむならいっそ…」
 降り注ぐ血飛沫を浴びる春。
「高杉」
 人が死ぬ春。
「望むなら何時でも」
 接吻する春。
「来て」
 人を殺した春。
「この俺が」
 ああ、絶景かな。絶景かな。

 

 


 ───凄まじい春。
 

 

 

 

 

 

20100208 恭