「花は桜木 人は武士」
…」
何故潔しが古来から好しとされるのか。どう思う。
「さあな。綺麗だからだろ」
「いかにも興味無さそうなその言い草。手前は実に分かり易い」
「お褒めの言葉、アリガトウゴザイマース」
「桜は好かねェか」
「いや、嫌いではねーけどよ」
「じゃあ何だ」
「ただ、散り方がなぁ。面倒くせぇというか、もっと一気に散ればいいものを、だらだらと、わざわざ見せ付けるかのように」
「桜の散り方を怠慢と呼ぶか。クク、初めてお目にかかったぜそんな奴」
「俺、皆の好きなモン嫌いなの。天邪鬼だから。オメーには負けるが」
「よく言うぜ…」
「コラ、またお前たちは喧嘩か?四六時中、顔を見合わせれば喧嘩しおって、その癖矢鱈とくっ付いているし、仲が良いんだか悪いんだか」
「仲悪ィんだよ。いっつもコイツがちょっかいかけてくんの。俺の事好きだから、コイツ」
「好きじゃねーよ。馬鹿だろ、御前」
「んだと、オメーに云われたくねぇよ、このスットコドッコイ」「…丁度好い、新しいこの刀の切味、手前で試してやるよ。喜べ銀時ィ」「ハン、俺なんか今二刀流の練習中だからね。返り討ちにしてやるよ」「だから止めんか貴様ら!全く、云ってる傍から此れとは」「「るせーよヅラ引っ込んでろ」」「ヅラじゃない、桂だ」「アッハッハ、楽しそうじゃの〜おまんら!わしも仲間に入れとおせー」「「るせーよ毛玉すっこんでろ」」「アッハッハ、泣いてイイ?」
勧 君 金 屈 巵
満 酌 不 須 辞
花 発 多 風 雨
人 生 足 別 離
|
雲一つ無い青天の春、絶景かな。 |
何処からか甘い花の馨が漂う春、絶景かな。
「お、金時。何処行く」 |
可憐に桜舞う春、絶景かな。 「…戦場から死体背負って、此処まで来たのか。ご苦労な事で」 「るせぇよ。オメーこそ何で此処にいンだ」 「墓を掘ってた」 ざくり。昨日の宴席で自慢していた自分の刀を、土の山に刺して。 「…新品じゃなかったのか?ソレ」 「もう此れァ使えねぇ」 「何故」 物憂げな伏し目。男にしては大分長い睫の影の底で、鶯色の瞳が瞬く。このいろは、春には好く似合う。 やがて、男は口を開いた。 「両手両足斬られた男。死なせてくれ、と俺に云いやがった」 「まさか…」 「だから斬った」 「───惨い、事を…」 喉を鳴らす、獣のような嘲笑。 「なら、生かしておけば良かったのか?もう助かる見込みもねぇ。死にきれず、激しい痛みにのた打ち回るだけ。そんな状況で、『生きろ』と?ハハ」 掴み掛かられた。背負っていた屍骸が、衝撃で背中から滑り落ちた。 「どのクチがほざきやがる。手前も同罪だろ。救えずに殺した。御前が殺した」 ああ、だから俺はこの男が好きなんだ。
春。
|
20100208 恭