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morning

 

 

 

  「土方さ〜ん、誕生日おめでとうございやす。というワケで」
 ドカーンとバズーカ吹き飛ばす沖田である。間一髪でサっと地に伏せかわす土方である。ガッと沖田の胸倉を掴み、土方は怒鳴る。本気で怒る。当たり前である。命の危険である。
「テメッ総悟ォォォォ!!いきなりバズーカぶっぱなすバカがどこに居ンだよォォォォ!!」
「や、折角アンタの誕生日なんですから、プレゼントでもしようかと…」
「どんなプレゼント?!いつもと一緒じゃん!!ただの殺戮じゃん!!」
 自分で言ってて悲しくなる土方である。ヤベ、涙出そうだよコレ。

 

 

 

***


 

 ───そうか、俺、今日誕生日なのか。
 今朝の沖田乱心騒動(といっても土方襲撃は日常茶飯事なので乱心騒動とはいえないのかもしれない)から時間を経て、一人でかぶき町を歩いているとそうしみじみ思う。時間差である。それも仕方ない、沖田というバカを相手にしていると、その攻撃を避けるのとツッコミに意識を奪われるので何か考え事をする事は出来ないに等しい。という訳で屯所を離れ一人になった今、改めて今日という日の実感を得るに至る。…悲しすぎる。どこに部下に本気で命を狙われる上司が居る…
 吐き出す紫煙には溜息が入り混じっている。頭上の空は何処までも青く光っている。雲ひとつ無い。遠くで鯉幟がはためいていた。
「…誕生日ねェ」
 別に何がどうなる訳でもない。祝って欲しいともさして思わない。誕生日が来て嬉しいのは精精ガキだけだ、だとか何とか考えつつ曲がり角を曲がる土方。煙草を買いに外まで出てきた土方である、もう自販機で煙草は調達した、あとは屯所へ帰るだけだ…とそこでドンと肩がぶつかった。
「おっと、すまねぇ」
 目線を上げると、そこには。
「あ〜いってえいってえ、骨折れたかも〜ちょっとちょっと、こりゃあ医者代くれんと…」等とアタリ屋めいたふざけた台詞を抜かしていた男も顔を上げ土方の顔を一目見るなり、顔を引き攣らせた。
 例の白髪の男である。
 まぁたテメーか…、と土方が歯軋りし低く唸ると、男もそりゃこっちの台詞だ、と微妙な半笑いで不機嫌そうに答え、そして男の言葉は続く。
「何かさぁ、何者かの作為を感じるよねコレ。何なの?俺達最近ばったり会い過ぎじゃねぇの?そんな世の中うまく行くワケないじゃん、コレ何の因果?てか誰の仕業?大宇宙の大いなる意思?管理人?世の中の腐った女子共の陰謀?」
「どこ見て喋ってんだバカ。いいからどけ」
「ハァ?お前がどけ」
 狭い路地裏でバチバチと火花が飛ぶ。
「俺はテメーと違って忙しいんだ、グダグダ抜かすんじゃねぇさっさとどけやがれ、公務執行妨害で逮捕すんぞ」
「んだとコノヤロー横暴警官が、市民ナメやがって週刊誌に告発すんぞマヨネーズ男」
「ああ?やんのかコラ」
「上等だコラ」
 またコレである。どこまでいって進歩しない男達である。互いの胸倉を両手で掴み合い、メンチ切りあう二人。
 …とそこに、あのトラブルメーカーの姿。しかし男二人は悲しいかな、ガルルと唸りながら相手を牽制するに精一杯で、この人影には気付かなかった。そして人影はそれを好い事にツカツカ歩み寄り、何も言わずにカシャンと二人の右手と左手、左手と右手に手錠。
「「ん」」
 硬質な金属の感触に、そこで初めてバカ二人が人影を見た。言わずとしれたドS王子が、最高級の笑みを浮かべてそこに立っていた。
「土方さん、アンタの為に最高のシチュ用意してやりましたぜィ」
 この状況の事を指すらしい。土方がすかさず絶叫。
「またお前かァァァァ!!何が最高のシチュだァァァァ蘇るアニ銀166話の悪夢じゃねぇかァァァァ!!」
「そうだよ沖田クン!俺もうこんな青筋ヤローとランデブーなんざ御免だかんな!」
「大丈夫でさァ、もう下剤作戦はしねーんで。折角のデートなのに下ネタは禁物でしょ」
「「そういう問題じゃねぇんだよォォォォォ」」と二人のハモリ。
「鍵出せや総悟頼むから!今日片付けなきゃなんねぇ書類が山ほどあんだよ!」
「大丈夫でさァ、近藤さんに言ってアンタ今日休暇にして貰ったんで」
「何勝手に休暇にしてんだァァァァ!!」またもや土方の絶叫である。
「いやいやいや、んな事言ったって、俺も仕事あるからね、マジ。家で腹すかしたガキ二人とでっけぇ犬一匹銀サンの帰り待ちわびてるから、俺居ないと奴ら死ぬよ?ホント」
「大丈夫でさァ、今日の旦那は土方さんトコお持ち帰りなんでヨロシク、ってさっきメガネに言ってきたところなんで」
「誤解を招くような言い方すんじゃねぇよォォォォ!!俺もう万事屋帰れねーじゃん!帰ったらなんか気まずいカンジじゃんコレ!どうすんのォォォォ?!?!」
 最低である。
「まぁそういう事なんで。俺は屯所に戻りや〜す、土方さん、良い休暇を」
 そう言いヒラヒラ片手を振り、沖田は二人に背を向けスタスタ歩き出した。
「ふっざけんじゃねええええ!待ちやがれ鍵置いてけっつってんだろ!」
「おわっ土方引っ張んじゃねーって、ブゴォ!」
 ダッと走り出す土方だったが、手錠の存在は忘れていたらしい。急に両手首を引っ張られた銀時は前のめりによろめき、土方と衝突して二人で道路に倒れこんだ。銀時の下敷きになりつつも、土方は青筋たてて怒鳴る。
「…っ、ざけんじゃねーよ白髪テンパ!逃がしちまっただろが!」
「知るかァァァ!!オメーがいきなり走り出そうとするからじゃねぇかァァァ!!」
「オラ立て、すぐ追うぞ!勝手なマネしやがって、ただじゃおかねぇぞったく!」
「もおおお何でこんな事になんだよったく!」
「俺が知るか!いいから走れ!」
「命令すんじゃねーよ!お願いします銀時様わたくしめと一緒に走って下さいだろうが!」
「るせーんだよテメェはいちいちィィィィ!!また土下座攻撃されてぇのかコラ!」
「んだとコラァァァそれが人にモノ頼む態度かよ!ざけんじゃねーよ!」
「やんのかコラ!」
「上等だコラ!」
 またまたいがみ合う二人。これこそ時間の無駄であるが悲しいかな双方共に気付いていない。馬鹿の極みである。