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daytime

 

 

 

 

 

 という訳で早足であの諸悪の根源・ドS王子を探し回っている二人であるが、全く見つからない上、周囲の視線が痛い。痛すぎる。片やあの悪名高い武装警察真選組の形(なり)をした警官である。その警官が銀髪の男とまさかの両手手錠である。手錠プレイである。警官が犯人を捕まえる為に手錠を使い自分と犯人の手首を繋ぎとめ逃亡を阻止する、それは別段不思議な事ではない、だがそれは片手の話である。片手同士に限った話である。両手手錠ってどうよ、何もできねーじゃん、…両手手錠って。両手手錠って、ナニ?バカなの?間違って両手にしちゃったの?それとも貴方達いい年して男同士なのにデキてんの?公衆の面前で羞恥プレイ?羞恥両手首拘束手錠プレイでもしてんの?みたいな視線がグサグサグサグサ(以下略)。
「…土方クン…なんかさ、俺…死にたくなってきたんだけど…」
「クソ、居ねェ総悟のヤロー、どこ行きやがった」
「あの、話聞いてる?俺死にたくなってきたよマジで」
 鬼気迫る土方を無理矢理引っ張り、銀時は腹拵えせにゃ動けんだろ、と喫茶店に入った。休憩である。というか何か気晴らしでもしねぇとやってらんねぇよコレ、という調子である。

 

 

 

 

「んじゃ俺パフェね。お前、どうすんの」
「…もうテメー相手には奢らねェぞ、俺は」
「は?ナニ言っちゃってんの?俺無関係なのにオタクらの抗争に巻き込まれたカンジじゃんコレ、言っとくがなぁ俺ァコレでも我慢してんのよ?遠慮してやってんのよ?慰謝料請求したいとこだが土方クンったらカワイソウだな〜って思って譲歩してパフェ七つで我慢してやるよって言ってんじゃん」
「そんなに食べる気でいんのかァァァァ!!御前マジ死ぬぞ糖尿病で!」
「いいのいいの、太く短く生きるからね俺は、そうやって決めてるから。スンマセ〜ンお姉さん、この人の奢りでパフェもが」
 土方がすかさず銀時の口を手で塞いだのである。
「だから奢らねーっつってんだろ!人の話聞けや!」土方の手を引き剥がして銀時も唸る。「何言ってんのお前、ここまで俺に迷惑かけといて今更そんなクチ叩ける身分じゃねーだろコノヤロー」
 その時、土方の制服についている無線の小型マイクから、沖田の声が。
『旦那の言う通りでさァ。土方ァ、ちゃんと旦那にパフェ奢って遣れよ〜デートだろうが』
「またかァァァまたこのパターンかァァァ!だからオメーはどっから見てんだよォォォォォ!!!!」と土方のシャウト。
「え?何コレ?デートなのコレ」と銀時が怪訝な顔して問うと、『そうでさァ、今日、土方の誕生日なもんで。奴、誕生日プレゼントに旦那とのデートがしてぇと宣うモンだから、こうして俺がデートの場を設置してやった次第でさァ。旦那、申し訳ねぇが、今日一日奴の為に付き合ってやってくんねぇかィ』と沖田が答え、「…え、…土方クンったら、俺の事好きなの…?」と口元を押さえ眉を顰め顔色真っ青ドンビキの顔で真面目に問い返す銀時。
「なワケねぇだろうがァァァァ全部コイツのウソに決まってんだろ!」
『旦那、アレ嘘なんで。土方のヤロー、アンタの事大好きなんで』
…うっわ、ゴメン、ちょっと俺、お前の気持ちには応えられないわ…
「マジレスしてんじゃねーよォォォォ!!オメーラぶっ殺すぞォォォォォ!」
 と、そこでウェイトレスが二人にツカツカ歩み寄ってきた。土方のシャウトツッコミに周囲が怪訝な目を二人に向け始めていた矢先である。
「スイマセン、大声は他の御客様の御迷惑になりますので、もう少し声を抑えて頂けますか…って…」
 拳を作って途端にワナワナ震えだすウェイトレス。銀時がそこで初めて彼女の顔を見上げて、「げ」と顔を引き攣らせた。ウェイトレスは、薄紫色の長い髪をし、眼鏡をかけている。そして持っていたトレイを派手にガッシャーンと投げ出し、銀時に抱きついた。
「ぎ、銀さんじゃないのォォォォ!!キャハッこんな所で会うなんて本当奇遇ね、ってか運命?運命の赤い糸的なカンジ?キャアアアそうよ、きっとそうよ、運命の赤い糸が私達をこうしてめぐり合わせたんだわ!ってかもしかして銀さんから私に会いに来てくれたカンジ?もお、カワイイんだから〜ダメだゾ、さっちゃんは今お仕事中な・ん・だ・か・ら!って…」
 恍惚の表情で銀時に頬擦りしていたさっちゃんが、そこで銀時の手首についている手錠を見た。そしてその手錠で銀時と繋がっている土方を次に見る。一拍置いた後、さっちゃんがメスブタモード全開に。
「ちょっとォォォォォ銀さん何よコレェェェェェ!!この男と、てっ…手錠プレイだなんてェェェェ」
「デカイ声出すんじゃねーよ、皆コッチ見てんだろこのバカ!」
「何よ、今更彼氏面?!浮気までしといて、しかも男相手に!今までずっとそうやって私の心を弄んでいたのね、許せないわ!」
「や、話聞けよ!」
 嫌な顔をしながら騒ぎを傍観している土方、するとまたもやここで沖田の声である。
『何ボケっとしくさってんだ土方ァ、ちゃんと旦那助けにいけよ〜旦那困ってんだろうが。彼女が変な輩に絡まれたら助けに入んのは彼氏として当たり前の事だろうが〜』
「もういいからテメーは黙ってろやァァ!」と土方が突っ込むと同時に、さっちゃんがぐるんと土方に首を向けた。
「…何ですって?彼氏?今彼氏って言った?どういう事?銀さんの彼氏って事?」
「…ハ?なワケ…」『そうでさァ、この男、旦那の事を心の底から好いてましてねィ。今は旦那と手錠プレイしながらデート中の身でさァ』と、土方の声を遮って無線マイクからまたも沖田の声。瞬時にゴゴゴゴゴとさっちゃんが燃え盛る炎を点す。一挙にして標的が銀時から土方に移った。
「…ちょっと待て、今のは嘘だ嘘、全部嘘だから。デートとかナイナイ、ってか男同士だろが」
 ねりねりねり、無言で納豆を練り始めるさっちゃん。つかどこから出してきた、もしかしていっつも持ち歩いてんのか、納豆。
「問答無用ッ!銀さんもアナタも私が成敗してあげるわ!メスブタモード全開よ!」
「いだだだだだ!てか、ちょ、くっさ!納豆くっさ!投げんじゃねぇよこの納豆女!」と銀時。
「フン、SMプレイもコレで終わりよ銀さん!今すぐ私に跪いて謝りなさい、そして今すぐこの男と別れなさい、別れて手錠外して私に手錠つけなさい私と手錠プレイしなさい!浮気なんか絶対許さないんだからね!」
「るせえええ黙ってろおおおお」と叫ぶ銀時は、何故か土方を盾にしてさっちゃんの納豆攻撃を防ぎ始めた。
「ちょっと待てェェェ!何で俺巻き込まれてんの!何で俺巻き込まれてんの!何で盾にされてるの俺ェェェェ!!」
 納豆を武器に襲い掛かるウェイトレス、それを避ける銀髪男、そして一方的に盾にされてる警官。回りもいよいよ騒がしくなってきた(当たり前である)。銀時が顔を顰めながら舌打ちした。
「チィッこの儘じゃ分が悪ィ、手錠されたまんまじゃロクにかわす事も出来ねぇ!」
「いやいや人の事平然と盾にしてる奴が言うんじゃねーよォォォ!ホントぶっ殺すぞテメェェェェ!!」
『土方ァなかなかやるじゃねーか、旦那の事を身を挺して庇うなんざ。ヒューヒュー』
「庇うんじゃなくて盾にされてんだよォォォォ!つか総悟オメーまじ出て来い!頼むから斬らせろォォォォ」