「ねぇ、アイツどこに居るのか知らねー?」「誰だ。アイツじゃあ分かんねーよ」「アイツだよ、アイツ。黒髪で、短い髪で、黒い目で、」「そんなの誰でも一緒だ」御前以外はな。「何だよ、高杉だって、翠がかった目。あ、今思い出したけど、俺、昔御前の目を宝石みてぇだなって思ってた。うらやまし〜とか思ってたよ」「こんなん珍しくも何ともねぇだろ。テメーの目に比べりゃあよ」「…そうだ、話戻すけど。だからアイツ。最近仲良くなったんだ、ホラ、俺にちょこまか話しかけてきてくれてた奴」「…知らねーよ」「エッチな本貸してくれるっつってたんだよ。探さなきゃな〜」「へェ、モテない奴はそんな面倒くさい事しなきゃなんないワケ。おんな誑し込めば済む話じゃねぇか」「テメーみたいに遊里行く暇が無ェんだよ」「んなトコ行ってねぇよ。向こうから寄って来るモンだ、善い男にはな」「チラチラにやにやこっち見んな!あ、もう心折れたわ、俺の心 もうダメ」「クク、そう心配しなくとも、俺が手前の貰い手になってやるよ。第伍夫人あたりに」「夫人じゃねぇよ!あんなんちっちゃい頃のクチ約束じゃねぇか!からかってんじゃねえよ、クソ!」「言い出しっぺは御前だったからな。覚えとけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ…アイツ…知らねぇか」「だから誰だよ」「アイツだってば」「名前は」「…えーと」「覚えてねーのか。そう云えば、手前、昔っから人の名前覚えんの苦手だったよな」「男の名前覚える分のスペックは持ち合わせてねーって事だよ」「頭がカラだからな。仕方ねーか」「ちげーよ!男に興味ねーって事だよ!」「それは俺も同感だ。イチイチ男の名前なんざ覚えてられるか。如何でも好い」そうだろ?なぁ銀時。「…でも約束してたんだ」「エロ本をか。それで独りで自慰でもヤる気か?なら俺が相手してやろうか。昇天させてやるよ」「バカ、ふざけんのも大概にしろよ」「チッ頑固な奴。たかがエロ本の約束なんざ、どうでも好いじゃねぇか」「一緒に酒飲む約束もしてた。二人で」「…」「何処に行ったのかな。最近全然姿見ないけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひいいいいいい!!ゆるっ…ゆるしてしにたくないいいいいいいい!!!赦さねぇよ。幕府の間者が。惨めで醜悪な狗。楽しかったか?夜叉と話せて。随分楽しそうだったモンななァ、この数日。必死で取り入って。だが、アイツが気付かなかったとでも?気付いてたさ。テメーが幕府の回しモンで、圧倒的な戦力を誇る自分を殺そうとしてた事も全部気付いて。いっその事、手懐けようとする前に、奴の首目掛けて踊りかかれば好かったんだよ。そうすりゃ、奴は何の迷いも無く手前を一刀両断にしただろうし、こうして俺が出張る必要も無かったし、こうして手前が苦しむ事もなかった。アイツは甘いからさ、きっと苦しまないように首を一太刀にするだろうがな、俺はそんな甘かァねぇもん。残念だったねェ。痛っアああああぎぃぃああああ!!!嗚、みっともない声。醜い豚。御前はここでさよなら。あれ?さよならの返事は如何した。まさかもう逝っちまいやがったのか?臭い。俺の着物まで汚していきやがって、…ったくこれだから。「鬼にゃあ、詰まる所人様は敵わねぇってか。上等だぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

べべんべん。聞きなれた音がする。「勝手に人の部屋入って三味線パクってんじゃねーよ」「いいじゃねぇか、その位」「相変わらず下手糞だな、手前はよ」「俺、だって見よう見まねで独学だし。御前と違って」目が合う。白髪は口を開く。「…血。ソレ返り血?」「ったりめーだ。一匹、丸々肥えた醜い豚を屠殺してきた。食えたモンじゃねぇが」「食えないのに殺したの?無駄な殺生はいけないんだぜ、御天道さまが見てる」「あの人の受け売りか。小癪な」無性に腹が立ったので、白髪を押し倒していた。唇が触れ合う程のその距離。「思っても居ねぇ事軽々しくクチにすんなよ」「思ってるよ。生きる為に必要な殺生しか俺はしないし」それは真であり偽。誰がこんな奴を手懐けられる?誰が手を伸ばせる?誰が染められる?無理だろ。況してや、下心見え見えの新参者の豚。浅はかな。「───御前は酷い奴だよ。本当にな」「御前も。誰も頼んでないのに…斬らせてくれれば好かったのに」そうして暗がりの中でじゃれ合いもつれ合い、白い項を吸い舐め噛んで、今日も忙しく猛獣の真似事。

 

 

 

20100131 恭