「あー、旦那じゃねぇですかィ。奇遇ですねィ」 「げ」 「げ、とは何ですかィ、失礼な」 そりゃ言いたくもなるよ、とぼやきは胸の中にしまっておく。シカトして、大量の生クリームやら苺やら卵やらを入れた袋を両手に抱えて、のしのし街を歩く。青年は横に並んで何故かついてくる…チ、何だよコイツ。 「今、バレンタインのお返しをしてきた所でねィ。踏みつけてやったら喜びやがったぜィ、プライスレスで結構な事だ」 何だよ、お返しに踏みつける、って。おかしいだろ、あ、でも俺も人の事言えねーのか、さっきメスブタ踏みつけたばっかだもんな、と銀時は一人ごちる。 「その手に持ってるモノたち…さては、旦那もこれからお返し作りですかィ?」 「そーそー、ウチの馬鹿チャイナが煩くてさぁ、そんで今から作んの。だからキミに構ってる暇はないからね、わーったら、さっさと退いた退いた」 「土方さんにはお返しやんねーんですかィ?」 ニヤニヤニヤ。 …ホラみろ、だから今日コイツとは会いたくなかったんだよ。 「土方さん、何でもバレンタインに旦那に大量のチョコ送りつけたらしーじゃねぇですかィ。一人で自室に篭って、チョコダンボールに詰めまくってコソコソ何やってるかと思えば、全部アンタに送りつける為だったとは、いやはや、屯所内でも豪い騒ぎでさァ」 「…」 何か、凄い、やる気なくした。というより、何か生きる気なくした、今。 「土方のヤロー、今日は夜九時まで屯所に帰ってきませんぜィ。手渡しするんならちゃんと計画的にいかねぇと」 「誰があんなヤローにチョコやるかよ。きんも〜」 「待ってますぜ、あの男は、アンタを。まぁ、やんねぇっつーならそれはそれで、俺はいいですけどねィ、その方が愉しいし」 ニヤリ、哂って沖田は手を振り、見廻り中なんでここらで失礼しまさァ、と踵を返す。よく言う。結局万事屋の前まで付いて来た癖に。 頭上は晴天、春の兆し。徐々に暖かくなってきた空気、それでも強い風が吹く。 |