神楽にはホールケーキ三個、…ただしちっこいヤツ。本人は駄々をこねたが仕方がない、量より味だと唆し、問答無用でその口にケーキの切れ端放り込めば案の定食べるのに必死で文句もない。紅茶の代わりに酢昆布で甘さを和らげているのは頂けないが、この静かな時がチャンスだと無視して黙って外へ。
此処から吉原は遠い。頭をポリポリ掻きながら、歩みを一歩進めたところで、新八が出てきて銀時を引き止めた。
「ちょっと銀さん、ケーキ忘れてますよ、折角作ったのに」
 冷蔵庫の中に入れておいたソレを言っているらしく、彼の手の中にはもう既に箱ごとおさまっている。
「あ、ソレね。違う違う、ソレ俺が自分で食べる用に作った奴だから。誰にも上げねーからソレ。お前、神楽探り当てないように見張っとけよ、俺が帰った時にソレ無かったら俺マジ激怒だかんな」
「や、だって銀さんが持ってるケーキは、月詠さんとこのでしょ。土方さんのはどうすんですか」
 銀時が新八に掴み掛かった。顔に影が差して凄みがある。
「……ったく、どいつもこいつも……何なの、お前ら面白がってるだけだろうが、俺らをホモにしたいの?何の陰謀?誰が黒幕なんだ、ん?正直に言ってみろ、腐った女子共か、画面の向こう側で見てる腐った女子共なのか、ん?」
「ちょ、落ち着けェエェェ!!何言ってんですかアンタ、意味わからんから!」
「何で俺があんなマヨネーズ男に大好物の甘味をやらねぇといけないんだよ、マヨネーズヤローはマヨネーズ食ってりゃいいじゃん、それで万事解決じゃん、願ったり叶ったりじゃん」
「だって、あんなチョコ貰って、あげないワケにはいかないでしょ。だって凄い量でしたよアレ」
「ちげーよ、アレはアレだ、俺利用されただけだから。チョコの処分がどーのとか言って、それでたまたま俺が通りがかったから、無理矢理送りつけてきただけだって。そんだけだから、そもそも俺拒否したからね、オメーのお下がりチョコなんざ願い下げだっつったからね」
 新八が半眼になる。
「…そうですか、僕の記憶が正しければ、あのチョコ囲って一週間ぐらいニマニマしてたのアンタなんですけど、神楽ちゃんの猛攻をも防ぎながらコソコソ一人でチョコ食いまくってニヤニヤしてたのアンタなんですけど」
「ぱっつぁん、細かいコト気にすんなや。漢たるもの常に前見てなきゃダメだろ、後ろを振り返ってる暇なんざないんだよ、それが侍ってモンだろ」
「ムカツクんだよさっからオメーはよォォォォォォ!!!何が侍だ、アンタこそ侍語る資格ねぇからァァァァ!!」新八のシャウトが響き渡る。ずい、と銀時にケーキの箱を差し出す。
「もういいからコレ土方さんに持ってった方がいいですって、いいじゃないすか、いっつもお世話になってるから、とか言えば。銀さんの言うとおりチョコの処分に困って土方さんもチョコ送りつけたんだとすれば、お返ししても別に深読みされませんって」
「やだって、このケーキ俺食べるんだっつってんじゃん」
「…アンタ、ホントそれでも侍ですか、恩義に厚い侍なんですか」
「あーるせぇるせぇ〜もういいわ、俺とにかく吉原行って月詠んトコ行ってくっから。お前も姉ちゃんとこ行ってさっさとお返し渡してこいや」
 そうして銀時が歩き出しても、新八はまだ後ろで何か叫んでいる。銀時が持つケーキは結局一個分。や、だってキモイもん、何で俺があいつにやんなきゃなんねーの、マジ。鳥肌。
日が沈む。もう夕闇がやってくる。

 

 

 

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